マイノリティやセクシャリティ

「あっつ〜。あ〜マジで暑かった〜」

8月の中頃。あたいが仕事を終えてゲイ風俗の控え室に戻ると、

ちょうど同じタイミングで控え室に帰ってきたボーイが一人いた。

 

どうやら出張での仕事終わりだったようで、

出張セット(コンドームやローション、バスタオルなどが入った仕事道具一式)

の入ったカバンをソファーに乱雑にほおると、すぐにエアコンの前で風に当たっていた。

 

「お疲れ様〜。冷蔵庫に麦茶あるわよ」

「やったー。助かる〜。もちぎも飲む?」

 

彼は嬉しそうにしながら上に着ていたシャツを脱ぎ去って、

上半身ハダカで控え室に備えてある冷蔵庫の方へ歩いていく。

そういえば彼はノンケ(異性愛者)だったので、

周りにゲイの同僚がいようと意識せず脱ぐような、自然体な感じの男の子だった。

 

「あんた、はしたないわよ〜。はよ替えの服でも着な」

 

と、あたいが近づいて彼のカラダを改めて目にすると、

胸と腕にワンポイントのタトゥーが入ってるのに気づいた。

あたいは彼にタトゥーがあることを知らなかったので、つい少し長い時間それを眺めた。

すると彼は視線に気づいて、口を開いた。

 

「あ、タトゥー入ってるの知らなかったっけ? 一応サイトには表記してるけど……

まあそこまで見ないよね、ほかのボーイのプロフィールなんて」

 

彼はそうあっけらかんに言うので、あたいは頷いた。

 

たしかにゲイ風俗ではサイト上に表記するプロフィールに、

《年齢》《身長体重》《ペニスのサイズ》《プレイ時の得意ポジション》《本人の自己PR文》など以外に、

喫煙習慣があるか、お酒が飲めるか、

そしてタトゥーが入ってあるかは必ず記載されている。

なぜならそれがお客様によっては、指名する条件や求める条件の中に

それらが深く選定理由として関わってくるからだ。

喫煙者とはキスしたく無いと思ったり、

タトゥーがあると興奮しないと言うお客様は少なくない。

だからそう言った方々にその要素の有無を知らずに指名されたりして

クレームやキャンセルに陥らないよう、

ゲイ風俗業界ではそれらの有無を表記するのが当たり前になってた。

 

それはボーイ達も承知の上で働いているけれど、

やっぱり商売としての商品チックなくくりわけみたいだなと、あたいは少し寂しく感じていた。

 

「もちぎの周りにタトゥーとか入れてる人いないの?」

 

彼は新しい服に着替えて麦茶を飲んで一息つく。あたいは隣で次の仕事の準備をしていた。

 

「いないわねぇ……。いやもしかしたらいるかもだけど。見えるところに入れてないだけかも」

 

彼がそうであったように、

脱がなきゃ分からない箇所に入れてる人はあたいの周りにもいるんだろうなと思った。

ただ、服を脱いで対面するなんて、友達であってもそうそう無い。

同性なら一緒にお風呂でも行けば分かるけど、

そもそも行く前にタトゥーがある事を言うはずだろう。

なぜなら日本国内ではタトゥーがある人間が、

肌を見せる施設に入場するのに制限や禁止がつきまとうからだ。

 

「ま〜、日本じゃ入れててもガッツリ見えるとこには入れづらいよね〜。

俺もこの仕事するまではわざわざタトゥーの有無とか言わなかったし

さすがにゲイ風俗だと全裸になるから嫌が応にも分かっちゃうし、ちゃんとプロフにも書くけどさ」

 

彼はタバコに火をつけて、のんびりと一服する。

 

「やっぱり大変? なんか言われたりするの?」

 

「うん。ネットの掲示板ではタトゥーが残念とか、

裏社会の人間かもしれないとか叩かれるし、

せっかく指名してくれたお客さんも『顔はいいのにタトゥーが残念』

とか面向かって言われるわけ。けっこう傷つくぜ〜?」

 

彼は笑いながら話す。

たしかに体が商品として価値を持つ《カラダ資本》の業界ゆえ、

とかく身体的特徴はジャッジされやすいし、非難されることも多い。

一般社会でも見た目というのは重視されるが、

ここでは《商品価値》としての評価にも直結するので、悪目立ちはその子の営業にも関わってくる。

 

「しゃ〜ないけどな、お客さんはわざわざお金払って買いに来るわけだし好みはある。

でも人様には迷惑かけてないのにどうして叩かれんだよ、

しかもお金払ってない人間にまで、とは若干思っちゃうよね〜」

 

彼は小気味よい悪態を吐くが、気持ちは痛いほど分かる。

相手の見た目の好き嫌いはたしかに誰にでもあるし、

それは非難できないけど、好き嫌いで判断した対象の物を批判し排除する動きには少し怖さを感じる。

 

嫌いだから認めない、これを個人でなく集団で認めてしまうのがエスカレートすれば、

例えばタトゥーで例を挙げるなら

《ゲイ風俗で働くことを禁止する》ことにも繋がりかねない。

 

「あとさ、なんでタトゥー入れたんだってお客さんに説教されることもあるけど、

これめちゃくちゃ考えと思い入れがあるんよ」

 

「……傷があったとか?」

 

「お、よく知ってるな。まあそんなとこ、とにかく色々あってさ、

俺としては後悔してない。だから人の選択や決断知らずに

『遊びでバカなことして』とか『後悔するぞ』って

決めつけられるの毎回否定したり受け流すのめんどうでさぁ……」

 

彼は体が冷えてきたのか、もう一枚上着を取り出して羽織った。

 

「いろんな感じ方あるし、好き嫌いも分かる。

タトゥーが相手を怖がらせちゃうことも分かる。

だからしっかり入ってることを明言してたり、

場所によっては隠せばいいんじゃないのかなって、俺は思うんだよね。

ちゃんと住み分けできてるならノータッチでいいじゃん。

どこもみんな一辺倒に禁止で排除だと、タトゥー入れたことは後悔しなくても、

生きづらさくらいは覚えるって、なぁ?」

 

彼は2本目のタバコに火をつける。

あたいは深く肺にまで煙を入れる彼に、思いの丈を伝えた。

 

「いろんな事情があるかもしれないのに、

なにか決めつけてかかるのはいけないことだし、

たしかにこのゲイ風俗の問題で限れば

《明記してあるんだからイヤなら指名しない》でいいと思うわ。

ここの業界では髪が黒髪がいいとか、金髪がいいとかそういうのと同じ話だと、あたいは思う。

他の分野のことはあたいもまだ何も分からないから言えないけど、

でも少しづつ理解が広がっていくといいわね」

 

あたいは当時大学生だった。

就活もまだだったので、社会の仕組みや不文律を体感していないところもあった。

 

ゲイの生きづらさと違い、これは文字通り目に見えて批判されやすい。

あたいらよりも当事者が矢面に立つ機会が多く、大変だろうと感じた。

 

「ーーで、もしさ、もちぎがタトゥー入れるなら……どんなの入れたい?」

 

彼は話の流れで冗談気味に話題を振ってきた。

 

「う〜ん、お尻に《愛情満点 ヒップホップ》って入れたいかしら」

 

あたいがそう言った時の、彼のドン引きの表情は忘れない。

たぶん、生き恥を体現する人間であるあたいを蔑視する目だったーー……。

 

ツイッターでも大人気。もちぎさんの記事はこちら

 note(ノート)
ウリセン編43 あたいと、タトゥーを入れてゲイ風俗で働く同僚の話|もちぎ|note
「あっつ〜。あ〜マジで暑かった〜」 8月の中頃。あたいが仕事を終えてゲイ風俗の控え室に戻ると、ちょうど同じタイミングで控え室に帰ってきたボーイが一人いた。 どうやら出張での仕事終わりだったようで、出張セット(コンドームやローション、バスタオルなど...

 

 

 

 

 


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